2020年5月号(第66巻5号)

日本の四季彩巡り(5)

水面にかかる野生藤

撮影地:
山口県 山口市
一貫野

 日本には古来多くの美しい藤の花がある。最近、特に人気があるのは、あしかがフラワーパークの大藤であるが、ここに紹介するのは山口市の仁保一貫野集落の坂本川の御坊淵と呼ばれるところにある自生の藤の花である。川縁に建物3階くらいの高さの小山があり、そこから数段にわたり藤の花が流れ落ちているように垂れ下がっている。見頃は4月下旬~5月上旬あたりで、人工的に造られた藤棚ではなく、まさしく自然の藤である。藤の花の付き具合は1年ごとに良い年と悪い年があり、今年は良いとの話を聞いて、山口市内で一泊し、朝の3時頃一貫野に到着した。すでに藤の前の平坦な岩の上には多くのカメラマンが三脚を立てて待っている。日の出は5時頃、その前の市民薄明の時刻頃からわずかにこぼれる光が、川の水面すれすれに垂れ下がっている藤の花にあたり、背面の小さな滝をバックに妖艶な姿を現す。滝の勢いによって水面すれすれの花の先端がわずかに揺らぐことがあり、スローシャッターで撮るため露光時間が長いと、わずかな動きでも被写体がぶれるので静止するまで待つ。朝陽が昇り明るくなり、小山を見上げるとフサフサした活きのよい藤の花が何十列も垂れ下がり山一つが紫色となる。自生でもこれほど素晴らしい藤があることにあらためて感動する。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。