2017年11月号(第63巻11号)

〇冷たい北風に、街路樹の沢山の落ち葉がカラカラと乾いた音を立てて転がっては、沿道の片隅で寄り添い合う。風が吹くたび、アスファルトの上で幾度となく繰り返される、落ち葉たちの出会いと別れの風景。気がつけば七十二候の「朔風葉払」の季節である。
七十二候の第五十九候に当たる「朔風葉払」は11月27日から12月1日の期間。「朔風」とは北風、すなわち木枯らしを指し「さくふうはをはらう」「きたかぜこのはをはらう」などと呼ばれる。
風がおさまっているときを見計らって落ち葉の掃除をするのは大変であるが、若い人たちが箒で落ち葉掃除をしているのを見ると日本古来の暮らしが受け継がれていることに嬉しさを感じる。一方、掃いても掃いても切りがない枯葉の掃除はもう沢山、というところか、凄い音に驚いて振り返ると、ブロワーの強風で葉を巻き散らしている老婦人を見かけた。
〇木枯らしが吹荒れ寒くなってくると、風邪をひき、くしゃみをする人も現れる。くしゃみにかかわる諺「一謗り、二笑い、三惚れ、四風邪」や「一に褒められ、二に憎まれ、三に惚れられ、四に風邪をひく」の伝承から、くしゃみをすると誰かに噂されているのではないか、と冷やかされたりする。自分の意思と関係なく、突然出るくしゃみはどこか霊的なものと捉えられていたので、その理由付けとして「噂話」が当てられたのかも知れない。
古来日本では、くしゃみをすると魂が抜けて早死にすると考えられており、「くしゃみ」の語源「くさめ」という言葉は、災いを遠ざける呪文であったそうだ。くしゃみの出る回数によって褒められたり、惚れられたりとしたのは、その恐ろしさを中和するために民間でとった対応策であったようにも思える。なお、くしゃみをして鼻から魂が抜けるという恐ろしい迷信は英語圏にもあり、くしゃみをすると「God bless you」といって神様のご加護を祈る言葉が捧げられる。ともあれ、四は風邪をひくである。風邪という災いが訪れないよう、これからの季節、暖かくしてお過ごしください。

(大森圭子)