2017年11月号(第63巻11号)

海外旅行での防犯

東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学教授
宮地 勇人

安全な国と言われてきたドイツのベルリンの国際会議に出席したときのことである。夕食を済ませてホテルに戻る際、ギリシャ人の旅行者から頼まれ写真撮影中であった。そこへ警察官を名乗る男が現れた。身分証明書を提示の上、大麻取引の捜査中とのこと。ギリシャ人と小生の2人はパスポート提示を求められ、サイフ内の大麻の臭い?を調べられた。続いて、日本円所持金はいくらかと聞かれた。何故、日本円の額を知る必要があるのか不審に思い問い返した。コントロールとして知りたいと。納得いかないながら所持金2万円を見せた。大麻のバイアーを疑ったのか、他に現金がないか?と続いた。これが所持金の全てと言うと、納得したようで、捜査協力に対して(?)握手を求められた。
ホテルの部屋に戻って、ネットで調べると、ベルリンでは少量の大麻所持は合法とのこと。入手目当ての旅行者もいるらしい。夕闇の中、異なる人種の2人は大麻取引中の不審者とみなされても仕方ないかと、奇妙な出来事の整理を試みた。しかし、どうにも腑に落ちない。翌日ホテルのフロントで訊いてみた。ドイツの警察には所持金を調べる権限はないので、そのような場合は警察へ通報またはホテルに連絡してほしいと言われた。ネットで再度調べて真実が判明した。在ドイツ日本大使館から2ヶ月前に「安全の手引き」の注意が出されていた。ベルリン市内中心部で、警察官を名乗って観光者を呼び止め、麻薬検査と称して、所持品を検査するふりをして金品を盗むといった「ニセ警察官による窃盗事案」が多発しているとのこと。まさに同じ手口である。背景には外国からの犯罪組織の流入と邦人旅行者の防犯意識低下が挙げられている。ドイツの警察官の身分証明書は、その職種によって色が異なるが、何れも顔写真つきで、大きさは銀行のキャッシュカードサイズとのこと。思い起こすと、自称警察官の身分証明書は、ギリシャ人が見せたパスポートと同じ色(青?)とサイズであった気がする。2人は窃盗仲間だったのか?そういえば、2人は同じ方向に去っていった。
今回、幸い金品の被害はなかった。不審に思って執拗に問い返したことや所持金額が期待はずれに少なかったことが幸いしたか?国際会議に出席を重ねる中、海外での防犯意識に欠けていたと自覚した。海外旅行では、いつ犯罪に巻き込まれるか用心と事前の備えが必要である。