2015年10月号(第61巻10号)

〇日に日に秋も深まり、ゴールを求めて漂うような、はるか彼方からやってきたはかなげな日の光が、ビルの壁や道の隅に風で寄せられた落ち葉にようやくたどり着き安堵したようにそっと宿っている。
薄手の服を重ね着しても肌寒さを感じるようになり、先延ばしにしていた衣替えも、そろそろ本腰を入れなくてはと思うこの頃である。
〇本号には、野口英世記念会副理事長の竹田美文先生にご執筆いただいている“明治・大正・昭和の細菌学者達”シリーズの“番外編”として、編集委員の東條先生に「野口英世記念館を訪ねて」の記事をご執筆いただきました。取材の際は、私ども編集事務局も東條先生にお供をして記念館を訪問させていただきました。様々な趣向が凝らされ、分かりやすく整理された展示を楽しみながら野口英世博士の足跡をたどるうち、苦労の多かった人生や数え切れない偉業についてはもとより、博士と周囲の人々との心の触れ合いを知り、感激し、心があたたまりました。
〇また私には、私の祖母が福島県喜多方市に住んでいたこともあって、まだ小学校に上がったばかりの頃に、祖母の家から家族とともに足を伸ばし、野口英世の生家を見学したおぼろげな記憶がありました。当時でも古びた家屋であった生家が、何十年もの時を経て当時と変わらない姿で残され、今また再会できるとは信じられないことでした。
東條先生の記事のなかで紹介されている写真のとおり、黒光りする土間や当時の暮らしぶりを伝える生活用具などからも、生き生きとした生活感が感じられる生家を前にして、野口英世を尊び、野口英世と家族の暮らしぶりに思いを馳せ、生家を大切に保存してきた野口英世記念会や地元の方々のあたたかい心とご苦労が窺え、野口英世との心の交流が今もなお続いていることを実感しました。
〇歴史の重みが感じられる生家、そしてそのすぐ横には今年4月に誕生したばかりの記念館があります。野口英世が生まれた1876年から数えても、生家と記念館には100年を大きく上回る年の差があるのですが、不思議と隔たりは感じられませんでした。
まるで新しい記念館が生家を守るような形で仲良く並んでいるその眺めは、母親思いの優しい野口英世が、愛情に満ちた腕で母親のシカさんの肩を優しく抱いている姿にも似ているように思えました。
子供から大人まで誰もが楽しめる野口英世記念館に、ぜひ一度足を運ばれることをお勧めします。
〇今回の取材で大変お世話になりました竹田先生、総務課主任の野口由紀子様、学芸課主任の森田鉄平様をはじめ野口記念館の皆様に心より御礼申し上げます。

(大森圭子)