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2012年1月号(第58巻1号)
〇2012年新たな年を迎え、皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。
〇厳しい寒さに縮こまっては、知らぬ間に上がってしまう肩で重ね着の窮屈さを背負いながら、軽やかに過ごせる暖かな春に思いを馳せる日々である。
春に思いを馳せるというと、頭の中に「春よ来い」の歌詞が浮かんでくる。同名のようで書けば読点のある松任谷由実の「春よ、来い」も名曲だが、周りから言わせるとどうも古いタイプの私には、「春よこい、早くこい、歩きはじめたみいちゃんが…」でお馴染みの大正時代に作られた童謡のほうが印象深い。
この曲の作曲は「鯉のぼり」や「雀の学校」を作った弘田龍太郎(1892~1952年)、作詞は「ふるさと」や「カチューシャの唄」を作った相馬御風(1883~1950)である。
相馬御風は、自らの出身校であり、講師として働いていた早稲田大学に、校歌の第一作「都の西北」の歌詞を書き、その後200曲以上に上る校歌の作詞を手掛けている。作詞家である上に、詩人、歌人、書家、文芸評論家、随筆家など様々な分野で活躍、トルストイ作品の翻訳も行い、書籍の発行などを通じて北大路魯山人、竹久夢二といった多くの名だたる芸術家との幅広い交流もあったそうだ。1916年には郷里に戻り良寛の研究にも精力を傾けた。
相馬御風の出身地は新潟県の最西端にある糸魚川市である。糸魚川は翡翠の産地としても有名だが、地元に伝承される「沼川比売(奴奈川姫ぬながわひめ)」の伝説や万葉集に残された歌などから、御風が「奴奈川姫のつけていた翡翠は地元で採れたもの」と推察したことで、この地での翡翠の発見につながったそうである。
「春よ来い」のみいちゃんは、御風の長女「文子」がモデルといわれる。誰もが、よちよち歩きの可愛らしい女の子と膨らみかけた桃の蕾を思い描き、春の訪れを楽しみに待ち焦がれる気持ちに自分の気持ちを重ねるようにして、この歌を聴き口ずさむ。寒さの中でいつも心にポッと一輪の花が咲いたような気持ちになれるのは、愛らしいみいちゃんの姿がつなぎめ役となり、厳しい寒さに耐える思い、春を待ち焦がれる思いを皆で分かち合っているようなあたたかい気持ちになれるからであろう。
〇ラ・ロシュフコーの箴言集に「希望と恐れは不可分である。希望のない恐れも、恐れのない希望も存在しない」(「ラ・ロシュフコー箴言集」岩波書店)の言葉を見つけました。
凡そ400年も前に生まれたモラリストの言葉に力を貰えるのは、これが人間の持って生まれた心理だからでしょう。不変のルールを知ると、なんだそうかと開き直ったような気持ちになり、勇気が湧いてきます。恐れに潰されることなく、いつも希望と一緒に歩みを進める自分であるよう今年も頑張っていきたいと思います。本年もご支援のほどよろしくお願い申し上げます。