2021年3月号(第67巻3号)

〇明治天皇・皇后両陛下のご成婚25 周年を記念して、明治27 年(1894)3 月9 日に、わが国初の記念切手が発行された。これにより、この日は「記念切手記念日」とされている。当時、わが国には記念切手の概念がなかったが、在留外国人の投書による意見を受けて急遽発行が決まったそうである。菊花紋と雌雄の鶴が描かれた緻密なデザインの原版は「お札と切手の博物館」のホームページによれば、ご成婚の式典が1 か月に迫る中、通常制作に1 ~ 2 か月かかるところをわずか5 日で仕上げたそうである。
 「切手」とは、料金を前払いして権利を得たという証紙のことである。これに押されるスタンプは、仕事を受けましたという証である。日本では古くから対価を支払い、ある権利を持つ証明となる紙片を示す「切符手形(きりふてがた)」という言葉があったので、近代郵便制度を築いた前島蜜が、「郵便」「葉書」の名前とともに「切手」と名付けた。前島蜜は、鉄道敷設や江戸遷都などさまざまな事業や変革にも尽力した人物で、昭和26 年(1951)には郵便創業80 年を記念して、前島蜜の肖像が1 円切手に描かれた。以来、マイナーチェンジされる以外は、年号が変わってもずっと同じデザインで続いている唯一の切手である。今年の4 月には、郵政事業150 年を記念して70 年ぶりに日本郵便の公式キャラクター「ぽすくま」が描かれた切手が発売されるが、前島蜜の1 円切手も引き続き販売されるそうだ。サイズこそ小さいが、日本の礎を築いた先駆者の大きな業績を称える資料でもあるこの切手がこの先も受け継がれていくことは喜ばしい。
〇記念切手といえば本誌でも、蓮見武爾先生、春田三佐夫先生にご担当いただいた、世界で発行された医学に関する記念切手を取り上げる「医学切手シリーズ」というコーナーが1972 年より長く続いた。
このコーナーが始まって間もなく掲載されたのが、マサチューセッツ州出身で1956 年のオリンピックで女性フィギュアスケート金メダリストとなったテンリー・オルブライトの記念切手である。彼女は11 歳の時にポリオを患ったことで医師を志し、スケート界を引退した後は外科医となった。日本でもこれまで、オリンピックを記念した特殊切手は、数々発行されており、昨年は「東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会」や「聖火リレー」を記念した特殊切手が発行されている。今月25 日から聖火リレーがスタートし、いよいよ開催に向けて動き始めたが、東京オリンピック・パラリンピックが開催されたあとには、世界の記念切手の上に、どんな人物やドラマが残されることだろう。

(大森圭子)