2017年2月号(第63巻2号)

小さな親切

東京医科大学微生物学分野
東京医科大学茨城医療センター感染制御部
松本 哲哉

昨年、珍しいことを経験した。私が知らないある米国の教授から、日本を旅行中の自分の妻が感染症にかかったようなので相談に乗って欲しい、というメールが届いていた。怪しいと思いながらもなんとなく切迫感があったので、詳しいことを教えて欲しいと返信したら、妻は現在、新幹線に乗っており東京に1時間後に到着予定で、腹部の皮膚感染らしいので受診できる病院を教えて欲しいと、発赤した皮膚の写真を添えて返信があった。さらにメールを読み進めると、自分は医学部ではないが米国の大学の教授であり、妻から連絡を受けて自分なりに調べてみたら黄色ブドウ球菌による感染が疑われた。ネットで日本のその領域の専門家を検索したら私が見つかったので連絡してみた、という説明であった。これはいたずらではないと思ったが、私は予定があり直接対応できなかったので、推薦する病院と医師名を書いて返信した。するとその後、その奥さんが東京駅に到着して駅で相談したらしく、対応した職員から私に電話が入った。私の名前を出して病院に連絡しても良いかというので了解したところ、病院にすぐ向かってもらうということであった。私は先方の医師にこれまでの経緯を示したメールを送りお願いしておいた。翌日、米国の教授からメールが届き、紹介された病院で丁寧に対応していただき、妻も安心していると報告を受けた。また、急に無理なお願いをしたにもかかわらずこんなに親身に対応してくれて本当に感謝している。日本は素晴らしい国だ、という言葉が添えてあった。私自身はメールのやりとりをしただけであるが、今から思えば山のようにくる外国からのメールの中からなぜかこのメールは無視しないで読み、タイミング良く米国の教授と新幹線内の奥さんと新宿にいる私の3人がスムーズに連絡が取れ、さらに東京駅での対応が適切であったことが幸運だったと思われる。これから多くの外国人が日本を訪ねてくる。小さな親切も心細い外国人にとってはきっと有り難いものになると思う。