2014年1月号(第60巻1号)

世界遺産の富士山登山の心得

東海大学医学部 基盤診療学系臨床検査学 教授
宮地 勇人

富士山が世界文化遺産に登録された。ある夏、キャッチフレーズ「一生に一度は富士登山」に惹かれて、1泊2日のバスツアーに職場仲間とともに参加した。登山ガイド付きで初心者に安心である。行程は新宿駅前から登山口までバスで行き、途中の山小屋に一泊後、翌朝に登頂、下山後に温泉に寄る。前日の夜は研究会のため、都内のホテルに宿泊した。翌日を控えて自重するも誘惑に勝てず、2次会まで参加。飲み過ぎと寝不足の状態で朝バスに乗った。体調不良で高山病を覚悟した。富士山五合目でバスを降り、八合目の山小屋を目指した。シーズン最後の日曜日とあって、登山客が多く、幾つかのツアー団体が並んで登った。外国人が背負う乳児の泣き声は異様に高く響き、気分悪さのためか、そのトーンは徐々に高くなった。隣のツアー客では体調不良でリタイアが出た。辛そうにしていた別のツアー客が遂に痙攣で倒れた。トラクター荷台にて下山する光景を見て、一挙に緊張が高まった。次は自分と覚悟した。ガイドによると、登頂率は9割前後。20数人の一行から2-3名は脱落する計算である。山小屋到着は予定より2時間遅れた。夕飯を済ませ、8時から仮眠するも寝袋内で寝付けず。起床は渋滞を避けるため夜10時過ぎと早まった。山の一泊の短さに驚き、さらに不安になった。雨と暗闇の霧中、山頂を目指した。やがて雲の上に出ると、手が届きそうな満天の星を仰ぎつつ、眼下には幻想的なヘッドライトの列が続いた。自分を先頭に全員、登頂に成功!雲海の上からご来光を拝めた。達成感は格別であった。下山は順調であったが、どんでん返しが待っていた。膝が悪くゆっくりペースの1人が行方不明となった。ガイドが捜索のため残り、一行はバスで山中湖温泉に向かった。新宿に戻った際、行方不明者が自力で無事に下山したことを知った。
富士山は世界遺産となり登山人気は一層高まっている。一方、備えも忘れてはならない。春先から近くの山に何度か登り心肺や足腰を鍛えていたことが幸いした。寝不足や飲み過ぎは禁物。超早寝早起きの習慣も大切である。短時間でも山小屋で横になれば低酸素や気圧変化に慣れる。心得として、体調の管理と十分な体力準備の重要性を学んだ。