2007年12月号(第53巻12号)

マッチポイント

獨協医科大学越谷病院 臨床検査部 〆谷 直人

先月、両親の金婚式を祝った。昔は息子が3人で男女比4:1の家族も、今や男女比が5:7と逆転(男の子は1名のみ)。私は東京生まれの東京育ちであるが、名字が珍しいのは、親父が捕鯨の町で知られる和歌山県太地町の出身だからである。得てして珍しい姓は女系家族となり易く、結婚によって珍しい姓がなくなってしまうとのこと。確かに10人いる私の父方のいとこも、男子は1人しかいない。

話は変わるが、私の趣味のひとつに映画鑑賞がある。今ではシネコンが増えたこともあり、年間100本程度のロードショー作品を観ている。シネコンで話題の大作を観て楽しむのもよいが、映画通にとって単館ロードショーで味わい深い傑作に遭遇したときは至福の悦びである。大衆向けの大作映画と異なり、単館上映作品は感性の違いによって当たりはずれが大きい。私の好きな映画作家のひとりウディ・アレンは、単館上映作品の常連である。彼はニューヨーク以外の場所では映画を撮らない地域限定映画作家でコメディアンというのが40年近く定説になっていた。私も、ニューヨーカーである彼と同じく地方には住めない都会人であることを自負している。しかし近年突然、舞台をロンドンの郊外に変えて『マッチポイント』という作品を発表した(2005年作品、日本では2006年9月に公開)。この作品は、今までの快活かつ溌剌としたコメディーではなく、重厚な心理ミステリーである。“デュースになり、あと1点で勝つか負けるかのマッチポイント。ボールがネットにあたった時、それがどちら側に落ちるかの瀬戸際。”という冒頭のシーンより話が始まる。テニスをやったことがある方は、この状態がずっと続く主人公の気持ちがわかると思う。この映画は、幸せと不幸せ、成功と失敗の間を綱渡りし続け、運によって切り抜け、運によって助かる、“運が発揮されるタイミングの運が、良かったのか悪かったのか”そんな話をテニスになぞらえたところが上手いといえる。また、ストーリーもさることながら、イギリスのさっぱりした風景をオペラと一緒に描き、ひとつひとつのカットが非常に端整に出来ていた。

さて来年より、「特定健康診査(特定健診)」が実施されることになり、さらに「臨床検査科」という標榜診療科名を標榜できるようにもなる。これらによって臨床検査のボールはネットのどちら側に落ちるのだろうか。そして、なによりも私自身の『マッチポイント』は、どんな結果になるのであろうか。