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2007年5月号(第53巻5号)
最近、違和感を覚え気になって仕方のない言葉に「患者様」がある。院内の掲示物や果ては、学会発表・論文にまで「患者様」が出現する。医療もサービス業であり、「患者様」は当然なのかもしれない。しかし、ホテルやファストフード店でのお客様=お金を支払っていただく人、を連想してしまう。慇懃無礼な感じがしてならない。
病院で「患者様」が一般的になったきっかけは、厚生労働省の「医療サービス向上委員会」が、2001年11月に「国立病院等における医療サービスの向上に関する指針」で、「患者の呼称の際、原則として、姓(名)に『様』を付ける」ことを求めたためといわれる(橋本五郎『新日本語の現場第3集』中公新書ラクレ)。指針では、姓に様を付けるように勧めているのに、「患者様」が一人歩きしている。「患者様」と呼ぶことによって、患者に敬意を現すように職員の意識改革ができれば効果はあるのかもしれないが、現状はどうだろう?金田一春彦氏も、言葉を丁寧な形にしても決して丁寧な意味にはならないという言葉の例として「患者様」をあげている。「患者」という言葉自体が既に悪い印象を与えるため、いくら「様」をつけても敬うことにならないのである(金田一春彦『日本語を反省してみませんか』角川ONEテーマ21)。ある国立大学病院では、患者からの医療スタッフへの暴言・セクハラ・威嚇行為などの「暴力行為」が多発し、その背景の一つとして「患者様」と呼ぶことが過剰な「権利意識」及び必要以上の「お客様意識」を助長しているとして、「患者様」を「患者さん」という呼び方に改めた。
患者の姓に様をつけて、〇〇様と呼ぶのも何かしっくりこない。患者も医療スタッフも対等に病気に向かう立場であり、信頼関係が成り立っているならば、〇〇様では却ってよそよそしく自然に〇〇さんになると思うのですが、いかがでしょうか?患者満足度調査でも、様付けの呼称は必ずしも好感度が良いわけではなく、「〇〇様を使うのであれば、病院全体の接遇を整えることの方が先」とか、「〇〇様と呼ぶことで全てをごまかしているような気がする。患者一人一人に真剣に向かい合うのであれば、〇〇さんでもいい」といった厳しい意見がある。患者に対する対応や態度を変えずに表面上だけ繕っても、「患者は決して満足していない」「真に患者中心の医療とはなっていない」という当然のことを改めて考える必要がある。