2007年5月号(第53巻5号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

サウスレア

トレッキングに最も適した時期は、雨期

明けの10~11月です。しかしその時期には山はすっきり見えますが、花は全くありません。花を見るためには7~ 8月の雨期になってしまいます。雨を覚悟で7月、ロールワリン・ヒマールに行きました。ロールワリンとは、この地域に住むシェルパの言葉で「鋤で作られた畝」の意味だそうですが、西に流れるロールワリン・コーラ(川の意)からきています。東西およそ50kmですが、ネパールでは比較的小さな山群で、7,000m級の山は、ガウリサンカルとメルンツェの2峰だけで、それも雨期のために早朝にチラリと見える程度のもので、とても写真にはなりません。しかも、原生林の中は“ヒル”の生息地で、登山道の脇の草木にはぞろぞろと並んで首をもたげて、私たちに飛びかかろうと待ちかまえているのです。気持ちの悪いことこの上もありません。標高3,000mを越えると“ヒル”はいなくなります。その間は「きゃーきゃー」と悲鳴をあげながら追い払うのが大変でした。帰りもこの道を歩くのかと想像しただけで憂鬱になりました。この時期は山も見えない、ヒルはいるで、お花でもなければとても来る所ではありません。標高4,000mを越えて、青いケシやセーター植物(植物体を綿毛で覆い、寒さなどから身を守る)が出てくると、このことはすっかり忘れて夢中になって花の写真を撮りました。しかし帰りの道を何とか避けられないか考えたあげく、ヘリコプターがチャーターできる場所があることが分かり、予定を変更して帰りはヘリコプターに乗ってきました。やれやれです。

写真のサウスレア(Sausurea graminifolia)は標高4,000mを越えたところで見つけました。トウヒレン属で高山帯上部の湿った上昇気流にさらされる礫斜面に生えます。高さ15~20cm。花期には暗紫色の筒状花が綿毛から露出します。二つ並んでいる様は、仲の良いカップルが向き合ってお話ししているように見えて、なんとも微笑ましいです。

(撮影:1999.7 ネパール, ロールワリン山群)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数