2005年4月号(第51巻4号)

「北大ポプラ並木の倒壊」

北海道大学医学部 保健学科 松野 一彦

昨年(平成16年)は大地震、大型台風など国内外ともに災害の多い年であった。これは台風の被害が少ない北海道でも例外でなかった。平成16年9月8日午前、北海道に上陸した台風18号は、私の所属する北海道大学に未曾有の被害を及ぼした。台風の規模はちょうど50年前の1954年(昭和29年)9月26日の台風15号に匹敵するもので、これは青函連絡船「洞爺丸」を転覆させ、1155名の被害者をだしたいわゆる「洞爺丸台風」である。

9月8日午前は担当する「臨床血液学」の定期試験の最中で、私は試験監督をしながら教室の窓ガラスをうつ暴風雨の様子をながめていた。雨はしだいにおさまり、時に陽もさすようになりながら、風はさらに強まり、校舎前の楡の大木も大きく揺れるほどで、今にもガラスも壊れんばかりである。試験が終了し、外に出ようとしたが強風のため玄関の扉を押し開くことが出来ない。ちょうどその頃が暴風のピークで、最大瞬間風速は50.2メートルであった。1時間後、大学構内に出てみると北大自慢の木々は無惨になぎ倒されている。あるものは根こそぎ倒れ、あるものは途中で裂けている。その後の新聞報道によると、構内の約9500本の樹木のうち、2割にあたる約2000本が被害にあったという。保健学科の校舎の周囲でも13本が倒木していた。

札幌の観光スポットの一つである北大のポプラ並木をご覧になったことがあるだろうか?このポプラ並木は、1903年(明治36年)にアメリカから持ち帰った苗木を植えたのが始まりで、全長250メートルに高さ30メートル前後の大木51本が並んでいる。今回の台風によりそのうちの20本(39.2%)が根こそぎ倒されてしまった。翌日のヘリコプターからの写真で、同じ方向になぎ倒された並木の無惨な姿を見ると、自然の猛威に恐怖してしまう。大学のシンボルでもあっただけに、大学人ならびに市民の衝撃は大きかった。

大学評議会などの会議で対策が相談され、結局2本だけは実験的に立て直して再生を試み、その他は新たに若木40本を植えることになった。これらは全て古いポプラの枝の挿し木から育てたクローンだそうである。昨年までのあの颯爽としたポプラ並木が完全に再生するまで何十年かかるのであろうか?