2022年2月号(第68巻2号)

もう少し現代医療について考えてみよう

鳥取大学名誉教授
猪川 嗣朗

 最近大病して大学の附属病院で入院加療を受ける機会があり現代医療の現場を体験した。最近の医学の進歩には目覚ましいものがある。しかし医療の現場を担当するものとしてこれまで以上に一層心しなければならない事があるように思われる。
生物は日々個体として宿命としてまた加療など他の要因で変化しているもので同じものではない。つまり治療を担当しようとする相手が刻々変化し同じ個体ではないことである。医療統計学等で処理されたものとは言えそれはそれ迄に医学的知識として過去に言えたことで現在でもその知識や技術が有効であるとは限らない。個体は日々流動的な状態で異なっていると考えるべきで、加療により、加齢により日々同じ状態ではなく川の流れのように刻々変化する状態であるように思われる。
それ故現在得られている医学的知識も日々変化している医療対象者にも適用できるか否を総合的に検討し、このように流動的個体にもこれから起こる可能性を充分に考慮しての加療をしたいものである。各診療科が次第に専門化するにつれて個体全体としての立場から他科からのコンサルタント的役割が困難となり総合的に個体の病状を判断することがはなはだ困難となる。このような状況では刻刻変化する個体の病状を総合的に判断して適切な処置が出来そうになく総合的に判断できる役割を担う医療者が益々必要であろう。このような状況の現代医療の現場をより一層最適な状態にすることは並み大抵の事で出来そうにない。社会一般の医療通念の変革が必要と思われる。幼少の頃から医療に対する生物としての反応を理解することが必要であり、生物としての宿命を担っている人の加療にも個体は刻々変化しそれまでと同じ個体はないこと、これまで得られた医療知識がそのまま適用できるとは限らないことにもっと配慮した医療をすべきではないかと考える。