2021年7月号(第67巻7号)

コロナ禍における
米国ピッツバーグでの生活

ピッツバーグ大学医学部 病理学教室 臨床化学部門 准教授
玉真 健一

 令和初めての正月を迎えてからほどなくして、気が付けば日本からダイヤモンドプリンセス号のニュースが連日、アメリカでもテレビの画面を賑わしていた。アメリカは、このクルーズ船のアメリカ人乗客救出のために救援機を日本に飛ばし、大西洋を渡ったイギリスロンドンでは、市長選の候補がロンドンで東京五輪の代替開催可能であるなどと主張し始めた。もっともその当時は多くのアメリカの人にとって、コロナはまだ地球の裏側(極東)での出来事に過ぎなかった。
 ところが3月に入り、ニューヨークなど東海岸の大都市で新型コロナは急速に拡大するにつれ、「アジア系といえばコロナ」という公式がアメリカ社会であっという間に拡散した。「ピッツバーグでコロナ症例第1号が日本人から出たら、日本人排斥運動が起こりかねない…」と不安がつのった。我々は近所のスーパーでコロナ感染者扱いされた。自分たちの使ったセルフチェックアウトのレジには、たとえ他のレジが空いていなくても誰も近寄ろうとさえしなかった。他の日本人からも似たような話を耳にするようになったので、日常の買い物などは全て、デリバリーに切り替えてしまった。もう一年以上スーパーにすら行かない巣ごもり生活を続けている。近所のスーパーから週1-2 回ほど生鮮食料品などをネットで購入しているが、袋詰めにした食料品などを玄関先にどさっと置いていってくれるのでとても便利である。また私自身、自宅からの仕事も増えた。人と会うのは職場の僅かな人に限られ、同僚ともオンライン以外ではほとんど会っていない。会議や講義も全てオンラインである。
 アメリカにおける新型コロナによる患者数そして死亡者数は日本のそれの約50 から100 倍で推移してきたが、日本と比べると人口密度の低いアメリカでここまで感染が広がったのは当初は予想外であった。これには多くの要因が絡んでいるはず注)であるが、アメリカ側の要因としては人的要因も否定できまい。在米生活はもうすぐ計20 年となり、アメリカ社会についてかなり深く理解しているつもりだったが、それが誤解だったと改めて気づかされた。
 コロナ一色の2020 年が過ぎ、2021年も半ばを過ぎようとしている。5月16日、CDC が新型コロナに関する新しいガイドラインを発表し、マスク義務も緩和されるとアメリカの雰囲気は明らかに変わりはじめた。つい先日うちにやってきた水道屋も、ワクチン接種済みということでマスクを着用していなかった。今後、この新型コロナが日米のみならず世界で収束してくれることを願ってやまない。

注)海藻類の豊富な日本食が新型コロナを抑えるのに一役買っているのではないかという仮説
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33341894)を検証すべく、現在オンライン調査(https://pitt.co1.qualtrics.com/jfe/form/SV_7aot9tBuxLXWyy2)を実施している。