2021年2月号(第67巻2号)

どこに向かう獣医学教育 -その後-

日本動物高度医療センター
小野 憲一郎

 前回の「どこに向かう獣医学教育」から、はや14年が経過している。獣医学教育(学部教育)にも様々な方策が実施されており、現在大きな転換期を迎えているものと推測される。私自身も教育・研究現場を離れ、二次施設の一勤務獣医師として獣医学教育・研究の動向を外から見守る立場となっている。この間、鳥インフルエンザ、腸管出血性大腸菌(O157)、サルモネラ、トキソプラズマなどのヒトと動物の共通感染症の制御、食品の安全性確保の観点から、「One World, One Health」(一つの世界、一つの健康)の標語の下、医師会と獣医師会との間に学術協力協定が締結された。また、色々と物議をかもした加計学園(岡山理科大学)の獣医学部新設問題などにより、14年前とは異なり獣医学、獣医学教育、獣医療、獣医師の役割などについては広く社会に認知されてきているのではないかと思われる。教育現場においてもコアカリキュラムの制定、参加型臨床実習に対応するための共用試験、EUにおける獣医学教育の認証獲得に向けた取り組みなど、多数の課題が遂行されている。さらに、共同学部(鹿児島大・山口大)、共同学科(農工大・岩手大)、共同過程(北大・帯広大)など、コアカリキュラムを実施する上で必要と考えられる組織改革も行われている。しかしながら、目的とした獣医学教育改善に欠かせない教員の増員はほとんど認められていないし、計画もされていない。また、学部教育が強調されるあまり、教育基盤を支える研究活動に対する配慮は著しく乏しいと言わざるをえない。さらに、教育改善の最大の目的であった臨床教育の充実については、現在のところ明確には見えてこない。このままでは、臨床系教員の疲弊を来すのではないかと、杞憂かも知れないが心配している。これらのことを考えると、この先、獣医学教育ならびに獣医療がどのような方向に進むのか、期待もしつつ、不安も抱えて見守ることになるだろうと思われる。