2024年4月号(第70巻4号)

鳥棲む空にて

 研究室の書棚に並べられていたモダンメディアを読み漁っていた学生時代、まさか自分がこの著名な学術誌の表紙を担当することになるとは夢にも思いませんでした。この上なく光栄なことではありますが、同時に緊張の極みでもあります。不安でいっぱいですが、編集室の皆様の力を借りながら、精一杯務めさせていただこうと思います。よろしくお願いいたします。
 さて、私が担当させていただく写真のモチーフは野鳥ということになります。日本では600 種類の野鳥が観察できると聞いたことがあります。現存する鳥類は9,000 種類と言われているので、その1/15を日本で観察することができるということになります。
 しかしながら、野鳥と言われて私たちが思い浮かべるのはせいぜいスズメやカラスくらいで、多くの人々は鳥と同じ空に棲みながら、その存在に対して無関心です。しかし、ひとたびその美しい彩色や心地よい囀りに気づけば、逆に見過ごせない存在となりえます。
その存在に気づいてからは、私も春先の草花の揺らぎや、色づき始めた街路樹の梢に視線を送り、木々の間隙から漏れ聞こえる囀りに耳を傾けるようになりました。それだけでも、人生の満足度は大きく変わった気がします。
 鳥たちは小さくても健気に、逞しく、与えられた命を謳歌しています。家の周りを散策するだけで、スズメやカラスの他にも、ハト、メジロ、ヒヨドリ、シジュウカラ、ムクドリ、ツグミといった様々な野鳥たちに出会え、その顔ぶれの変化に季節の移ろいを感じることもできます。そんな季節ごとの野鳥たちの息吹を切り取って、皆様と共有できれば幸いです。

ルリビタキ

撮影地:神奈川県

 こちらはルリビタキという鳥です。冬の鳥として広く分布し、都市公園でも普通に見ることができます。「チッチ、カチカチ」という、火打石をたたきあわせるような音を響かせることから、「火焚き(ヒタキ)」という名前がついたとされています。そして、私が鳥の写真を撮り始めるきっかけとなったのが、このルリビタキだったのです。
 ある冬の日、カメラを手に家から10分足らずの公園を散歩していた時のことでした。どこからか「チッチ、カチカチ」という耳慣れない音が聞こえ、何気なく視線をやった先にこの鳥がいました。美しい青色の羽毛を震わせながら、さかんに囀るその姿に心を奪われ、気づけば夢中でカメラのシャッターを切っていたことを今でも覚えています。
 当時の私は、人生の節目のような時期であり、ちょっとした喪失感にも苛まれていた頃でした。しかし、そんな現実をこの小さな存在が忘れさせてくれました。それからは週末になるとカメラと双眼鏡をもって公園に通うようになり、いつしか気持ちも上向いて行ったように思います。
 インターネットで調べたところ、意外にも身近な鳥だと知りました。当然自分の観察力のなさを認めるべきところではありますが、いくら何でもこれだけ美しい彩色に今まで一度も目に留まらなかったことが不思議で、あたかも日常の景色が一枚ひっぺがされたかのような驚きと感動を覚えました。
 「青い鳥」はメーテルリンクの有名な童話劇です。チルチルとミチルの兄妹が幸せの青い鳥を探して遠くの国まで旅をしますが、その鳥は実は自分の部屋の鳥かごの中にいたと言うお話です。日常の風景の中にこそ幸せが隠れていると言うこのお話のメッセージを、わたしはまさにこの青い鳥に実感させられたように思います。

写真とエッセイ  佐藤 秀樹

<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー

<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。

写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。

撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。