2021年2月号(第67巻2号)

日本の四季彩巡り(2)

極寒の海からの贈り物

撮影地:
北海道 豊頃町
大津海岸 ジュエリーアイス

 北海道の冬の風物詩としてジュエリーアイスはこの2~3 年特に注目されている。十勝岳を源流とする十勝川が太平洋にながれこみ、北海道南東部の豊頃町・大津海岸に打ち上げられる氷の塊の造形美はジュエリーアイスと呼ばれている。十勝川は1 月中旬から全面結氷し、海に接した河口部で溶けた氷が沖に運ばれ、氷の塊のまま岸に打ち上げられたり、波に揉まれ形を変えて氷の角が取れ、丸みをおびた氷となって海岸に打ちあげられる。朝陽、夕陽に輝く氷の姿が宝石の様に美しいので、北海道の写真家浦島久さんがジュエリーアイスと名付けた。ごろごろした大きな氷が多数、一度に打ち上げられることは一冬に2~3 回しかなく、その瞬間にまだ遭遇していないが、そのときどきに打ち上げられた氷を前に朝陽や夕陽をバックにいくつかの写真を撮影した。まずジュエリーの美しさを引き出すには太陽の光が必要である。次に氷が海水に洗われて綺麗なこと、砂かぶりのない氷であることが重要である。打ち上げられた氷は大小さまざまであるが、ここで撮影した氷は波の浸食を受けて、その削られた部分に光が当たるとあたかもダイヤモンドの様な燦めきを発していた。この氷の命もそう長くないであろう。その美しい瞬間を撮ることができて幸せである。この朝の気温はマイナス23 度で耳は痛く、深く呼吸をすると肺が苦しくなり、指も凍傷になりかけた。気温がマイナス15 度を下回ると、海上ではけあらしという靄がもくもくと立ちのぼる。ジュエリーアイスは大小、様々な形をしており、広い大津海岸の中で自分だけのジュエリーを探すのは格別の楽しみである。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。