2020年4月号(第66巻4号)

日本の四季彩巡り(4)

朝靄なびく吉野桜

撮影地:
奈良県
吉野山

 吉野の桜は4月上旬に下千本に始まり、中千本、上千本、さらに奥千本と4 月の中頃まで楽しむことができる。その数3 万本といわれ、そのほとんどが山桜である。毎年見頃の時期が若干異なり、桜開花情報をしっかり捉えると、数々の絶景を撮影することができる。この年の目標は雨上がりの朝に、靄に囲まれた下千本の満開の桜を上千本の花見櫓の近くから撮影することとした。予てより休みのとれる日に近鉄の吉野口駅近くの宿を予約し、一泊して早朝、上千本の駐車場に向かった。当日の桜の開花状況は下千本は満開、中千本は7分、上千本は1~2 分咲きであり、期待していた雨がラッキーにも前日の夕方から降り始めた。朝方まだ中千本の金峯山寺近くの街路燈の明かりがついて見える時刻に三脚を立てて待つと、雨が上がり始めた5時頃より、もくもくと下千本付近に朝靄が立ちこめ始めた。靄は遠方の山にもかかり、望遠レンズで見ると白黒の水彩画の様な幻想的な風景となり、刻々と変化する姿に感動した。やがて時間が経つとともに、満開の下千本から中千本の桜の色づきが捉えられ、朝靄を入れた構図で念願の写真を撮ることができた。理想を言えば上千本の桜が5分咲き以上であるともっと良いが、そのような理想の世界は次に期待したい。吉野山は下から見上げる、秀吉が一目千本桜と名付けたという壮大な桜群、上千本から下千本を見おろす長い縦幅の桜群、そして雨上がりに山合いに流れる靄の中の桜群と見どころがたくさんあり、日本一といわれる由縁もそこにある。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。