2007年1月号(第53巻1号)

ヒマラヤの詩―山と花に魅せられて

ガネッシュヒマールIII峰

初めてヒマラヤを訪れたのは27年前でした。エリアは入門コースともいえる「アンナプルナ山群」で、ネパール・ヒマラヤの中央部に位置し、首都カトマンドゥから空路で約40分の登山基地ポカラに着きます。喧噪なカトマンドゥと違って、穏やかな自然に囲まれた静かな盆地にあるポカラは、ネパールのトレッキングのメッカであり、第一級の観光地です。かつて活発に交易が行われていたという、インドとチベットの間を結ぶ交易路を、ロバの隊商が行き来していたという歴史をもつ重要な町でもあります。初めて訪れた誰もが感動するのは、北側に広がるアンナプルナ連峰のパノラマであり、標高は低いけれど最も目立ち、マッターホルンのように聳え立つマチャプチャレ(ネパール語で魚の尻尾の意、6,993m)です。

トレッキング隊の世話をしてくれるガイド・シェルパ・ポーターたちと合流し、ロバの隊商と時々すれ違いながら、民家の建ち並ぶ間の道を歩きます。途中で見かける人々や子供達の貧しいけれども優しい表情と人なつっこい顔に心が和みます。そして空の青さと神々の山を映しこんでいるような子供達の深い眼差しに触れ、遠い昔に置き忘れてきたものに出会えたような、強い郷愁を感じました。いつのまにか、ヒマラヤにはクーンブ、ロールワリン、アンナプルナ、ガネッシュ、ダウラギリの各山群、チベット・ヒマラヤ、ブータン・ヒマラヤ、インド・ヒマラヤと通うこと延べ10回になりました。

写真の“ガネッシュヒマールIII峰”はカトマンドゥの北75kmという近距離に位置して、主峰はガネッシュ・ヒマールI峰で、以下高度順にII, III, IV, V, VI, VIIのピークからなります。III峰はガネッシュ山群中最も峻険なピークで、登攀の困難度が高く、数回に亘り登頂が試みられましたが、ようやく'81年秋、西ドイツ・ネパール合同隊がトロ・ゴンパ氷河(4,100m)より入山し、隊長とネパール側隊員3人が初登頂に成功しました。同時期に北東稜ルートから挑んでいた九州歯科大学隊が隊長等3人とネパール側2人が同じ日に30分遅れて登頂に成功しました。こうした登山史を持つIII峰を、山岳写真家のF氏に案内されて、トロ・ゴンパ氷河から、早朝、朝日に輝く写真を撮ることができました。トロ・ゴンパ氷河はI, II, III, IV, V峰にぐるりと囲まれた絶好の撮影場所でした。

(撮影:2004.11 ネパール, ガネッシュ・ヒマール)

写真とエッセイ 後藤 はるみ

1938年 東京に生まれる
1963年 東京理科大学理学部卒業後、代々木病院検査室勤務を経て東京保健会・病体生理研究所、研究開発室勤務
1978年 東京四谷の現代写真研究所に第3期生として、基礎科、本科1、本科2、専攻科、研究科で7年間写真を学ぶ。
1984年 写真家・竹内敏信氏に師事、現在に至る
1999年 病体生理研究所定年退職

・日本山岳会所属 ・エーデルワイスクラブ会員
・全日本山岳写真協会 会員
・写真展「視点」に3回入選
・全日本山岳写真協会主催の写真展に毎年出品
・その他、ドイフォトプラザ等でグループ展多数