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2026年2月号(第72巻2号)
名医の条件は、人格高潔で、最新の医学的知識、卓越した技能、患者を思いやる心を兼ね備えていることだろう。が、筆者はさらに、「病気の痛みを自身で知っていること」、を加えたい。
不覚にも、若い頃に急性肝炎に倒れた。数日前から微熱と倦怠感があり、「風邪だろう」と医者らしからぬ素人判断をした。が、一向に良くならず、それどころか、食事をしようと口を開くのさえ辛くなった。その上、便がチョークのように白い。こりゃただ事ではない。肝癌か膵頭部癌か?有り難くない病名が頭を駆け巡った。
恐怖がよぎるなか、検査を受けるとAST、ALTは2,000をはるかに超えている。もはやこれまでか。観念して入院し、ベッドではこんこんと眠り続けた。よほど身体が安静を要求していたのだろう。幸いにも劇症肝炎には至らず、2 か月ほどで復帰できた。
55 歳のとき、ハーバード大学に1 週間の研修に派遣された。現地に着いた翌日から、朝9時から夜6 時まで意見交換、講義や実習視察などミッチリのスケジュール。しかも派遣団長。予想を遙かに上回るストレスの連続で、アルコールなくしては耐えられない。当然、夜はワインとステーキで酒盛り。
や、やられた!!研修の2日目に、左の第一足趾関節部がパンパンに晴れ上がり、真っ赤。痛いの何の。5 月のボストンはまだ寒く、足に布団をかけると飛び上がった。シーツだけでも思ったが、それすら受け付けない。風にふれただけでも痛いという痛風発作そのものの症状だった。
急性肝炎、痛風、尿管結石、帯状疱疹。感冒や骨折などを除き、死の恐怖感を味わったり、激痛に苦しんだ病歴だ。教科書や論文で病気については、病態、症状、所見を理解しているつもりではある。が、それらはあくまでも「他人事」であり、実際に身に染みた訳ではない。小児に「痛くないよ」と諭しつつ注射するがごとし。
実際に病気を体験してこそ、真に病気を理解できると言えよう。医師に健康は重要だが、病弱な医師こそ、患者の心に共感できる真の名医なのかもしれない。