2025年11月号(第71巻11号)

医療現場での接遇・採血室で

昭和大学病院 臨床病理診断科
福地 邦彦

 病院での接遇は、ホテルやテーマパークでの接遇とは性質が異なることを2016年1月の本欄で述べました。今回、具体的な接遇の場面として、採血室の様子と取り組みを紹介します。現在、病院を訪れると多くの場合、採血、採尿、レントゲン検査を受けます。中でも、採血は針を刺し痛みを伴うので患者さんにとっては一つの関門となります。採血室のベテランスタッフに安全かつ円滑に採血するための要点を尋ねました。
 採血する際には、まず名前の確認から始めます。名前を呼んで返事をしてもらうのではなく、姓名を自ら名乗ってもらうのが原則です。ここは厳格に行われます。ただし最近は、医療安全のために病院内の各所に、「姓名(フルネーム)をお聞きします」と掲示されていますので、患者さん側も医療者もそのやりとりに慣れて来ました。
 人は誰でもこれから何が起きるかわからない時、一番不安になります。そこで最初にどれだけ採血するかを患者さんに伝えます。例えば「15mlの採血です、」と言う際には、「大さじ一杯分くらいですよ」と付け加えると、ああその程度なのかと、イメージがわくようです。採血直前には「これから採血します。ちょっとチクッとしますよ。」と伝えます。採血室で腕にゴムバンドを巻かれ、針を刺すのは判っているのですが、この一言で気持ちの準備ができます。採血が始まると、スピッツ3 本分を採血する際に、1 本目、2 本目が終わり3 本目に付け替える際に、「これで最後です。もう少しですよ。」と状況説明するとさらに安心できるようです。
 また、緊張しやすい人から採血する際には、採血中に「世間話し」をして気持を逸らすことを図ります。一方、体の弱った患者さんから採血する際には世間話さえも億劫に感じる場合があるため、一人ひとりの様子を見極めて柔軟に対処する能力が必要です。
 採血室で、検査を受ける人たちは順番待ちをしている間、「どの人が上手かな」と、採血室スタッフの様子を見ています。新人は一番緊張する場面ですが、べテラン達は公の場所では、あえて新人に対しても一人前の医療者として接することを心がけています。採血技術の向上と同時に、相手の気持ちを推し量る接遇能力を磨いていくことが求められています。