2025年6月号(第71巻6号)

「みそっかす」と「ガキ大将」

新渡戸文化短期大学 学長
宮地 勇人

 小生は、小学生の低学年時代、「ガキ大将」のもとの遊び仲間において、「みそっかす」とされていた。「みそっかす」は元々、すった味噌をこした滓(かす)のことで、何の役にも立たない物のことである。子どもの集団で遊びを行う際、年齢が低いなどハンディキャップがある場合、一定の特別ルールを適用する。この習慣は、かつて伝承文化として全国に存在した。「みそっかす」以外に、「ごまめ」、「おまめ」、「あぶらっこ」など20 以上の名称がある。当時は子ども時代から、弱者を守る感性を培う社会のしくみがあった。小生は幸い、そのしくみの中で守られながら育った。消極的な性格で行動が遅いため、集団の遊びの中で皆についていけない存在であった。クラスメートの「ガキ大将」のもと、同じ年の中でよほど鈍臭かった。にもかかわらず、弱者として保護された。その経験から、人の助けになりたいと、医者の道に進んだ。患者のため、全ての病気を学びたいと思った。次に難病を治したいと、白血病の診断・治療を専門として選んだ。夢は広がり、良質な医療に貢献したい、医療を通して日本を元気にしたい、と社会貢献の活動で旗振り役を担う。残念ながら、「みそっかす」の伝承文化は現在では見られなくなった。その背景として、兄弟数の減少、異なる年齢間で遊ぶ、または外で遊ぶ習慣の減少、習い事や塾通い、ゲームなど関心の多様化が指摘されている。現在の若者はこの伝承文化を知らない世代である。半世紀を経て、国民の健康に貢献する職業人を養成する大学で指導する立場となった。臨床検査技師は「医」を通して、栄養士は「食」を通して、国民の健康に貢献する。弱者に対する思いやりは、これら職業人にとって重要な素質である。本校初代校長の新渡戸稲造先生が世界的ベストセラー「武士道」で説いた教え「仁」(思いやり)に通ずる。学習効果を高める学生相互学習の導入では、勉強で先に進んだもの、実力のあるものは、出遅れた者への思いやりをもって教え合うよう、またお互いを高め合うよう指導している。一人でも多く、「みそっかす」の立場を理解し、これからの社会を担う次世代の「ガキ大将」に育つことを願う。