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2025年1月号(第71巻1号)
これは、旅先での警戒心を忘れていたことからの失敗談の告白である。
昭和39 年(1964 年・東京オリンピックの年)イースターの休暇でローマのテルミネ駅を歩いていた時のこと。突然、英語で 「私はミラノ大学の学生です」と言って、名刺をさしだされた。東京オリンピックに行きたいので種々準備中とのこと。ついては、日本人とお見受けしたので声をかけたとのこと。
立ち話しでは十分でないので、コーヒー店に入って話を交すことにした。段々と日本についての関心が高まってきて、お店をかえて少々お酒でも入れながらということになった。イースターの時期、イタリアではお酒は飲めないことになっているが、たまたま、開いている店を知っているからと案内されて、小一時間くらいビールを飲むことになる。
そのうちに、やや立派な料理が出てきた。一寸おかしいと思って警戒心で身構えて、とりあえずということで料金を聞くと、日本円にして5万円くらいとのこと。若い女性が傍らに来てニコニコしはじめてもいた。それは予想外のことで、「私は英国で留学中の学生で」そんなお金は持ち合わせていない。ついては、お金を工面するためにポリスオフィスに案内してほしいと頼んだところ、件の学生は、キャシュアーに行って打ち合わせをしている様子。ここで私の警戒心は高まった。
席に戻った彼は、「これからマネージャーに相談しよう」ということで、店の奥の方に案内。そこに中年のマネージャ氏がいて、現状についてやりとり(学生であることの確認。所持金の確認など)。結局、私の話を受け入れてくれて、1万円分を払って放免されることになり、一時は身の危険すら考えたが、やれやれと胸をなで下ろしたのである。
どこに危険がひそんでいるか。2020年の東京オリンピックを目前にして思い出したことである。