2026年3月号(第72巻3号)

鳥棲む空にて

タンチョウ

撮影地:鶴居村(北海道)

 タンチョウは、日本では古くから、ツルといえばこのタンチョウを指すことが多かったようで、歌川広重の「名所江戸百景 箕輪金杉三河しま」や、葛飾北斎の「富嶽三十六景相州梅沢庄」にもその姿が描かれています。広重の「三河しま」は現在の東日暮里一丁目付近、北斎の相州梅沢庄は神奈川県中郡二宮町あたりとされます。当時は関東でもこの美しい鳥を目にすることができました。浮世絵に描かれた風景は、人の暮らしと自然が地続きであった時代の証でもあります。
 しかし、明治期の乱獲により個体数は激減し、一時は絶滅したと考えられました。その後の保護活動により、北海道内では数が回復し、現在では夏は湿原の草原で、冬は雪原で舞う姿を見ることができます。
 この写真は、保護施設である鶴井・伊藤タンチョウサンクチュアリから、雪裡川のねぐらへ戻るタンチョウの群れです。中央に見える頭部の色が淡い個体が雛です。タンチョウは二卵産みますが、一羽でも育てば幸運なことです。タンチョウのヒナは、常に捕食される危険と隣り合わせです。前回紹介させていただいたオジロワシだけでなく、キツネなどにも狙われます。
 本来は日本列島の広い範囲に分布し生息していたタンチョウが、生息地の縮小によって限られた場所に集まらざるを得ず、過密という厳しい状況が生まれています。その環境を生み、生物多様性を損なう結果を招いてきたのも、私たち人間の営みでした。
 ヨーロッパでは19 世紀ごろから文化や自然景観を保全する試みがされていますが、日本では利益の追求を優先させ最近までこうした運動に無頓着でした。浮世絵の中の原風景をただ懐かしむのではなく、立ち止まり、自然との関係を見直す時期にきているのではないでしょうか。

写真とエッセイ  佐藤 秀樹

<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー

<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人工血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。

写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。

撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。