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2025年7月号(第71巻7号)
カワセミです。ヤマセミと同じ、ブッポウソウ目、カワセミ科の鳥です。全長38cm のヤマセミに対して、カワセミはわずか17cm と、ヤマセミの半分にも満たない小ささです。しかし都市部でも河川や水があれば目にすることができる身近な鳥で、自転車の錆びたブレーキのような高音で鳴きながら、水面すれすれを直線的に飛んでいく青い塊を見かけたら間違いなくカワセミです。
この鳥に魅せられてバーダーになる人も少なくありません。そしてその多くが「レンズ沼」に嵌(はま)っていきます。レンズ沼とは一眼レフカメラの交換レンズを次々に購入してしまう、一種の精神疾患(?)を言います。
前述のようにカワセミは非常に小さな鳥です。長い嘴を入れなければスズメと同じ大きさです。小さな被写体を撮ろうとすれば当然望遠レンズが必要です。わたしは当初、焦点距離300mm の望遠レンズで撮影をしていました。300mm とは、標準レンズの焦点距離を50mm とすると、その6倍の倍率になります。充分な倍率のような気がしましたが、だんだんと物足りなくなり、500mm、600mm と次第にレンズが大きくなっていきました。レンズが大型化するに伴い、性能の良いカメラも欲しくなり、さらには重いレンズとカメラを支えるための頑丈で高価な三脚も必要になりました。正直、大変な散財でした。
カワセミを狙って超望遠レンズ、超高性能カメラ、超高級三脚のセットが、何十台も川べりに並ぶこともあります。並んでいる機材を全部合わせれば高級車が何台も買える値段になるでしょう。
今わたしは大きなレンズを手放し、分相応のレンズで撮影しています。しかし、先日カワセミの撮影に行った際、「このレンズじゃ足りないんじゃない?」と悪魔が耳元で囁きました。危険です。カワセミと言う美しい鳥に魅せられ、とんでもない散財を繰り返す、我々バーダーをどうぞご嘲弄(ちょうろう)ください。
<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー
<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。
写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。
撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。