2025年5月号(第71巻5号)

鳥棲む空にて

チョウゲンボウ

撮影地:上谷戸(かさやと)親水公園 (東京都稲城市)

 チョウゲンボウです。ハヤブサの仲間ですが、大きさはハトとほぼ同じくらいの小さな猛禽類です。頭部が灰色の個体が雄で、褐色の方が雌です。写真では雌の方が積極的で、ウブな雄が雌の口づけに照れているようです。まさに幸せを絵に描いたような光景だと思います。
 ただし鳥類と哺乳類の祖先は数億年前のペルム紀に枝分かれしており¹⁾、進化のプロセスが大きく異なる両者に同じような感情があるのか疑わしいところではあります。また、鶏の解剖書を見ると、眼輪筋などの顔面の筋肉が乏しい、もしくは欠くとされており²⁾、さらには哺乳類以外の種では口を大きく開ける威嚇以外の表情は見出せないとも考えられています³⁾。それでもこの写真を眺めていると、我々以上に上手に愛情表現が出来ているように見えます。
 この写真を撮影した上谷戸(かさやと)親水公園のある稲城市は、多摩ニュータウンの東の入り口に位置し、近代的で閑静な街です。稲城市は市民投票によってチョウゲンボウを市の鳥に制定しています。上谷戸公園でチョウゲンボウを撮影していると、住民の方から時々声を掛けられます。「昨日はあの木の梢にいたよ」とか、「この前大きなトカゲを捕まえてきてたよ」とか、こちらが聞いてもいないのにそんな情報を共有してくれます。その時の和やかな表情から、どれほどチョウゲンボウを身近に感じ、愛しているのかうかがえます。そうした住民の愛に守られ、チョウゲンボウは自分たちの愛を育んでいけるのでしょう。

1) ペルム紀『ウィキペディア日本語版』
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%83%A0%E7%B4%80(2024年12月30日 (月) 10:04 最終更新)
2) 加藤嘉太郎:家畜比較解剖図説,P164-165,株式会社養賢堂,東京,1979
3) 藤井尚教:霊長類の表情に関する序説,大阪大学人間科学部紀要,4, p.280,1978,
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/11630/hs04-267.pdf

写真とエッセイ  佐藤 秀樹

<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー

<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。

写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。

撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。