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2024年11月号(第70巻11号)
水鳥の大群が餌場に向かって飛び立つ伊豆沼の朝の風景です。伊豆沼は宮城県の北部に位置する低地湖沼で、湿地保全の国際条約である「ラムサール条約」に登録されています。冬でも凍結しないため、マガン、ヒシクイ、オオハクチョウなど毎年数万羽の水鳥が越冬します。これらの大型の水鳥が朝焼けの空に一斉に飛び立つ光景は冬の東北の風物詩の一つです。
わたしが初めて伊豆沼を訪れたのは2010年の年末でした。数万羽の水鳥の飛び立ちはまさに圧巻で、思わず声が出るほどの迫力でした。これからは頻繁に訪れようと心に決めていたのですが、ご存じのようにその3か月後、東北を大震災が襲いました。内陸側ではありますが伊豆沼も被災地です。たかが鳥見のために訪れることに逡巡(しゅんじゅん)し、再び訪れたのは震災の3年後になりました。
寒さに凛と張り詰めた空気の中で、3年前と同じように夜明けを待ちました。ただ前回のような期待感ではなく、むしろ罪悪感や緊張感が心のどこかにありました。
やがて夜は明け、朝焼けの空に数万羽の水鳥が一斉に飛び立ちました。前回とまったく変わらぬ光景でしたが、その時の私は耳をつんざく数万羽の羽音に心底ぞっとさせられたのです。
どうしてぞっとしたのか?自分でもはっきり分かりませんが、震災のトラウマが心のどこかにあったのと、何事もなかったように繰り返される自然の営みを前にして畏怖の念を抱いたのかもしれません。
人はどう抗っても自然には無力です。自然に対する畏怖や敬意を忘れず、自然との調和を図ることの大切さをその時に再確認させてもらったように思います。わたしたちが自然の中に身を置き、その変わらぬ風景を目にすることの意義がそこにあるような気がします。
<所属>
獣医師 日本毒性病理学会認定病理学専門家
テルモ(株)R&Dテクニカルアドバイザー
<プロフィール>
テルモ湘南センター 元主席研究員
テルモバイオリサーチセンター 元センター長
人口血管、ステント、イメージングデバイスなど、種々の医療機器の研究開発に従事。
写真は20代の初めの頃、当時お世話になっていた国立衛生研究所の室長に薦められて。モチーフは主に風景と鳥。
記憶している最初のカメラは、キャノンEOSシリーズの1号機、EOS650。
現在使っているカメラはNIKONで、購入したのはつい最近のこと。
それまで使っていたカメラとレンズ資産を手放して購入し、現在は望遠レンズ購入を検討している。
撮影のモットーとしては、デジタルカメラで撮影の際は、多少ピントが甘くても、その瞬間を逃さずシャッターを切ることが大事だと思っている。