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食中毒病因微生物の検査

食中毒が疑われる事件が発生した場合、細菌検査やウイルス検査は、被害の拡大を防止する上で、非常に重要な意義を持ちます。 細菌性食中毒検査とウイルス性食中毒検査は、次のような手順で行います。

  1. 細菌性食中毒検査
    【検査手順】
    増菌培養した後に分離培養をします。
    分離培養後、疑わしい集落を釣菌し、顕微鏡検査 (鏡検)、生化学的性状検査および血清学的検査などにより同定し、食中毒菌であるか否かを判定します。 また、DNAプローブ法などの簡易迅速検出用試薬が開発されており、1次スクリーニングを行い、陽性の場合に分離培養すると能率的に効率的に検査ができます。 こういった従来の検査方法に加えて、より迅速、簡易な検査として最近では遺伝子学的検査も普及してきました。

     

    【細菌の性状確認(同定)】
    (1) 顕微鏡検査 (鏡検)

    顕微鏡検査は、顕微鏡にて塗抹染色標本を直接観察することにより微生物の染色性、形態やその構造を知ることができ、また微生物を分類したり推定同定を行うことができます。

    (2) 生化学的性状検査

    細菌の増殖中に産生する特定の酵素や、代謝の結果得られる最終の生産物を、pH指示薬の呈色など、色の変化で調べます。 細菌では生物学的性状が菌種によって多様であり、性状の数も多く、分類の指標としては極めて重要な位置を占めています。

    (3) 血清学的検査

    細菌の細胞表面の抗原の違いをもとに抗原抗体反応を利用した方法で、食中毒起因菌の血清型が決定され、同定が行われます。

    (4) 遺伝学的検査

    食中毒起因菌などの遺伝子の特定部位を検査する方法です。 DNAの二本鎖が、熱偏性すると二重らせん構造がほどけて一本鎖に分かれ、温度を下げると元の二重らせん構造にもどる性質を利用して検査対象のもつ遺伝子の特定の塩基配列に結合するプローブを用いて検出するDNAプローブ方法や、DNA鎖の特定部位(例えば毒素産生に関与する部位)のみを繰り返し複製する遺伝子増幅法(LAMP法、PCR法)があります。


  2. ウイルス性食中毒検査
    食品衛生上で、下痢症の場合には、細菌性食中毒のほかにウイルス性食中毒を疑います。
    まず、知っておきたいのは、細菌と食中毒原因物質としての食品中のウイルスでは下記の3点で性質が大きく異なることです。

    食品中ではウイルスは増殖しません。

    細菌の場合、食品自体が細菌にとっての栄養源となり、微量の汚染細菌でも大量に増殖します。しかし、ウイルスの場合は生きた細胞の中でしか増殖できないので、食品中では増殖しません。

    食品原材料中には病原ウイルスは通常存在しません。

    ヒトに病原性を有するウイルスが増殖できるのは、ヒトとサルの細胞に限られるので、食品原材料である獣肉、魚肉ではヒトの病原性ウイルスは通常存在しません。

    食品中の微量ウイルスは検出する方法がありません。

    食品中のウイルスを高感度に検出する培養細胞系がありません。検出方法として電子顕微鏡や酵素免疫測定法がありますが、検出限界があります。また遺伝子診断法が普及しつつありますが、遺伝子の塩基配列がわかっていないウイルスもあるため、全てを検出することはできません。


    ウイルス性食中毒が細菌性食中毒と比べて微量の病原体で起こりうるということから、食品だけではなく、飲料水や排泄物なども感染伝播の媒介となっていると考えられます。
    そこで下痢症患者の糞便中のウイルスを検出するか、患者の血清抗体反応を調べることにより、ウイルス感染と細菌感染を鑑別し、次にウイルス感染の伝播と食品との関連を推測することになります。
    ウイルス性食中毒であった場合、感染源からの分泌物や排泄物で汚染された食品を摂取することで発生するため、患者が新たな感染源となり得るので、二次、三次の感染により新たな流行集団を形成する可能性があります。そのため、迅速に細菌感染との鑑別をし、適切な処置をする必要があります。

【参考】 栄研化学株式会社 『食品微生物検査マニュアル《改定 第2版》』

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