2018年10月号(第64巻10号)

日本の四季彩巡り(10)

絶景涸沢紅葉に雲踊る

撮影地:
長野県
上高地 涸沢

山岳紅葉では日本一との誉れの高い、長野県 上高地の涸沢の絶景は私の最も印象に残る写真である。上高地の河童橋から涸沢までは約6時半の行程で、最初の2時間は川沿いの平坦な道だが、徳沢からは連続した登りとなる。10月上旬、紅葉の時期、涸沢までのルートは多くのハイカーや北アルプスを目指す登山者で長い行列ができる。今回の撮影行は2回目だが、前回は早霜の影響でナナカマドが早く枯れ、20年ぶりの条件の悪い紅葉といわれる年だったので、今回はそのリベンジで来た。この時期の涸沢ヒュッテは大混雑で通常200人収容できる山小屋に500人が押し寄せ、山小屋は原則、宿泊を拒むことができないためテント客以外は全員収容となり、畳1枚の布団に3人が入り寝返りも打てない状態で夜を明かした。前日に引き続き、今日も晴れで、ナナカマドの状態も良く、絶好の紅葉日和であった。ヒュッテのテラスからは左から奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳が臨め、山の斜面の赤を基調として橙色、黄色、黄緑色、薄茶色、緑色からなる木々の錦繍の美しさは言葉で表せない。日の出の時刻は残念ながら東の方向に雲があり、山肌が朝日で染まるモルゲンロートは見られなかったが、徐々に雲が晴れ、7時頃から行動を開始し、ヒュッテから上方100メートルの位置で、紅葉の絨毯を間近から撮影した。その撮影を終え、下山開始時刻の9時半頃から山々の上に上昇気流による雲が出てきた。雲はもくもく形を変えながら動き、涸沢の紅葉があまりに美しく、それに反応して楽しく踊っている様子で、この風景のタイトルを“絶景涸沢紅葉に雲踊る”とした。

写真とエッセイ  北川 泰久

<所属>
東海大学名誉教授・東海大学付属八王子病院顧問
医療法人 泰仁会 理事長

<プロフィル>
昭和49年慶應義塾大学医学部を卒業し、後藤文男教授の神経内科教室に入局、米国べーラー大学留学後、川崎市立川崎病院に勤務、膠原病と脳卒中の研究を行い、平成4年より東海大学に赴任、東海大学大磯病院副院長を歴任し、平成15年より東海大学神経内科教授、平成17年より付属八王子病院病院長を9年間つとめ平成29年より東海大学名誉教授、付属八王子病院顧問、医療法人泰仁会理事長、現在に至る。

専門は脳卒中、頭痛、生活習慣病、認知症。日本医師会学術企画委員会副委員長をつとめ、日本医師会雑誌の編集に長年携わっている。写真歴は約15年、各季節の旬を盛り込んだ風景写真のカレンダーを11年間作成し続け、平成26年には春夏秋冬の風景写真130余りを盛り込んだ写真集、憧憬を発表。

今まで使用してきたカメラはペンタックスとニコン、現在はニコン850Dを主に使用している。